3月の経済研究所セミナー

日時:2013年3月1日(金) 16:30~18:00
場所:中京大学名古屋キャンパス1・経済学部会議室(14号館4階)
講師:市野泰和氏 (甲南大学経済学部准教授)
論題:Redistributing the Gain from Trade through Non-Linear Lump-sum Transfers

一般に貿易の自由化が推進されると、たとえば安価な輸入品が購入できて利益を得る消費者や、海外市場への輸出販路拡大で利益を得る生産者がいる一方で、安価な輸入品との価格競争に直面して不利益となる生産者もいる。広く知られているように通常は前者の利益が後者の損失を上回り、社会全体の経済厚生を引き上げる。この研究は貿易自由化に伴って利益を得る人たちからその所得の一部を政府が一括して徴収し、貿易自由化で不利益となる人たちに配分する所得移転を扱うが、TPP交渉開始の是非をめぐって議論が交わされる今日、これは非常に時宜を得たトピックスと言える。ここで報告者は政府が個々の消費者の初期保有量についての情報を持たない場合には、閉鎖経済時の消費行動に応じて課税して所得移転を行おうとしても、個々の消費者がそのことを知っていることから、課税額を減らそうと行動してしまうために、貿易利益を所得移転によって的確に再配分することが不可能となってしまうことを、正確かつ緻密な理論モデルを用いて明らかにしている。大変明快なプレゼンテーションで、出席者の関心も高く、活発な議論が展開された。
(経済学部教授 近藤健児)