6月の経済研究所セミナー

要旨:
一橋大学・池間誠およびロチェスター大学・R. ジョーンズの門下にして、日本屈指の数理経済学者である北海道大学・久保田肇氏が掲げた演題は「ゲール・二階堂補題」。これはワルラスに始まる私的所有生産経済の一般均衡分析において、有限多数財の競争市場がある際に正の有意な均衡価格が各財市場で決まるとする、均衡解の存在証明に関する数理経済学上の最も基本的な知識の1つである。これは二階堂副包により、超過需要アプローチを用いて、角谷の不動点定理を直接的に適用して証明がなされた、1950年代の日本の数理経済学の金字塔的な業績でもある。ほぼ同時期に並行してデブリュー、マッケンジー、ゲールらが研究をすすめたが、それらとの比較から久保田氏は二階堂論文の卓越性を浮かび上がらせた。ただし、これらの研究はすべて有限次元を前提としており、それを無限次元に拡張しようとする取り組みはその後の数理経済学者に託された。早くも二階堂は1950年代の末には無限財のケースへの拡張可能性を示唆していたが、それが内包している重要性に反して、その業績は二階堂本人の学問的関心の変化もあって長らく忘れられていた。例外的にこのテーマに挑んだビューリーは有限次元近似のアプローチを採用し、排除条件などのもとでの均衡価格の存在を示している。久保田氏はこのビューリーのモデルを応用し、無限期間世界経済へと大山道広による有限期間世界経済の貿易と厚生の議論を拡張し、自己採算的関税貿易下の貿易の、潜在的パレート改善性を証明した。今や伝説上の人物となった名だたる数理経済学者たちのユニークなエピソードを交えた講演は大変興味深いもので、難解なテーマでありながら時間を忘れるほどであった。
(経済学部教授 近藤健児)